"純愛くんと天邪鬼さん”
第四話

第一話

第二話

第三話

大晦日、僕は例年通り家族四人で年越しを過ごしていた。
大晦日、私は例年通り家族四人で年越しを過ごしていた。


明日は女さんと初詣に行くことになっている。楽しみだな。
明日は男くんと初詣に行くことになっている。困ったわね。

きっと女さんは振袖を着てくるだろうから、開いた口が塞がらないような褒め言葉を用意しておこう。
きっと男くんは三十九度の熱でも来るのでしょうけど、私はといえば未だ両親に隠したままなのだ。

いつも可愛い可愛いばかりじゃ芸がないよね。たまには動きも加えてみようかな?
ただ単に「明日友達と初詣に行くから三人とは行けないの」と言えばいいだけなのだけれど、こうも億劫になってしまうのは引け目があるからなのでしょうね。

ボックスを踏みながら両手を広げて女さんへの愛を語り続ける。うん、撲殺されても文句の言えないキモさだね。
想いを伝え合っているから、友達以上恋人未満。そんな相手とこっそり会います、というのがどうにも気恥ずかしい。

楽しみだなあ。
はあ、憂鬱だわ。


■男の部屋

男「ふんふふーんふふーん」

妹「兄ちゃん、この所やけに上機嫌だね」

男「そうか? まあ、そうなのかもな。明日は想い人とデートだから」

妹「へえ、そうなんだ……はっ!? 兄ちゃん好きな人とかいたの!?」

男「なにをそんなに驚いてるんだ。僕は思春期だぞ? 好きな人ぐらいいるさ」

妹「自分で思春期って言っちゃうのって寒いよ兄ちゃん。ねっねっ、好きな人ってどんな人?」

男「そりゃ物凄く素敵な人さ」

妹「そんな曖昧な表現じゃなくて、もっと具体的にっ。なに、兄ちゃんの想いってもしかしてその程度なの? うわぁ、恋に恋しちゃってるとか引くなー。妹ながら引くなー」

男「後悔するなよ」ニコッ


■□十分後□■

妹「ごめんなさい。そして私は妹として女さんって人に謝りたい、ごめんなさい。最悪な兄でごめんなさい」

男「最悪って……兄に対して躊躇ないなあお前は」

妹「最悪とも言いたくなるよ兄ちゃん! 十分間もどんな人か説明できるなんて想定外だったよ! しかも女さんしか知り得なさそうな個人情報を持ちすぎだよ!」

男「それは大切な友人が色々と教えてくれるんだ」

妹「友達は選ぼう!? そして犯罪は止めよう!?」

男「女さんが嫌がってる様子もないからなあ……止めようがない」

妹「兄ちゃんが好きになるだけあって女さんって人も変人なのかなぁ」

男「いやいや、彼女は一周回って常識人だ。言ったろ? 天邪鬼だって」

妹「天邪鬼は常識人の代名詞じゃないよ兄ちゃん……」


妹「はあ、でも見てみたいなぁ、兄ちゃんが好きになった人だし」

男「いずれ見る機会もあるだろうな」

妹「それはお家に呼んじゃうってこと?」

男「それもそうだけど、結婚式になったら会えるだろ?」

妹「恐い、恐いよ兄ちゃん! 交際もしてない人と結婚の夢を描くのは本気で恐いよ!」

男「確かに夢ではあるけど、案外いけると思うんだよなあ。今のところは良好な関係を築けてるし」

妹「そういう問題じゃないよ兄ちゃん! お願いだから私を犯罪者の妹にしないでね」

男「…………当たり前だろ」ニコッ

妹「え、なにその間! もう手遅れなの!? 私は犯罪者の妹なの!?」

男「そんなことあるわけナイジャマイカ」

妹「うわあ! 兄ちゃんがとてもつまらないことを真顔で言ってるよぉ! うう……女さんになんて謝ればいいんだろう」

男「心配性な妹だなあ」

妹「人生かかってるからね!」


■女の部屋
女「ふあ……もう十時なの? って、なんで姉がここにいるのよ」

姉「いいじゃない」パタパタ

女「振ってる足を止めて今すぐ部屋から出ていきなさい」

姉「冷たいねぇあんた。まったく、誰に似たんだか」

女「少なくとも姉の影響は微塵も受けていないわ」

姉「可愛くないなぁ……よぉし、可愛くしてあげるっ」ガバッ


女「ちょ、ちょっと、いきなり抱きつかないで。それに姉に抱きつかれて可愛くなる異常な性癖は持ち合わせてないわ」

姉「はいはい」ナデナデ

女「や、やっ、やめなっ、うっ、やめなさ……ぃ……」トロン

姉「あんたは昔っから撫でられるのが好きだもんねぇ」

女「黙り……なさぃ……」ウトウト

姉「おっと、折角の大晦日、こんな時間に寝るのは勿体ないって」パッ

女「あ……ごほんっ。まだ寝るつもりはないわ」

姉「もう……すぐきりっと立て直しちゃってさぁ。そんなんじゃ彼氏できないぞぉ?」ウリウリ

女「彼氏なんかいらないわよ」サッ


姉「あれ……? いま目をそらした? そらしたでしょ!」

女「逸してなんかいないわ、ちょっと視界にゴミがあっただけ」

姉「目にじゃくて視界に!?」キョロキョロ

姉「あたしのことか!」ベチン

女「暴力反対よ。頭とはいえ叩かれるのは好きじゃないわ」

姉「こ、言葉の暴力も断固反対だよっ」ウルウル


姉「話を戻すけど、もしかしてあんた恋人いるの?」

女「いないわよそんなもの」

姉「じゃあいい人がいるんだ。そうでしょ、ね? ね?」

女「……?」

姉「とても難しい表情をするねぇ。いい人、かしら? みたいな」

女「父さんと母さんには内緒にしておいてちょうだいよ」

姉「ふっふっふ、ついに私は妹の弱みを握ったっ」

女「リークしたら姉の秘密を三乗漏らすわ

姉「そしてあたしは妹に弱みを握られっぱなし」ショボン

女「姉が毎度毎度嬉々として私になんでもかんでも話すからよ」

姉「自分の素直さが憎いっ」

女「……反面教師という意味では影響を受けているのかもしれないわね」


■男の部屋

妹「家ではとても素敵な兄だったんですっ……」ウルウル

男「……なにをしてるんだ?」

妹「マスコミが家に来た時の対応はなにがいいかなぁって」

男「……お前は僕に似たみたいだな」

妹「失敬すぎるよ! お兄ちゃんに似てるなんて自殺者じゃん!」

男「どうしてだろうな、女さんに毒を吐かれるのは堪らなく嬉しいんだけど、お前に言われるとなると軽く殺意が」グリグリ

妹「いたいいたいごーめーんーなーさーいーっ」ウルウル


男「まったく……そもそも、どうしてお前はここにいるんだよ」

妹「だって暇なんだもん。せっかくの大晦日なのに友達と遊んじゃいけないってお父さんは言うしさ」

男「時間を考えろよ。僕だってまだ深夜外出は許可されてないんだぞ?」

妹「えー、でも友達はしてるよ? 深夜外出」

男「あのな、誰かがやっているからってそれが絶対に正しいってことはないんだぞ」

妹「それぐらいわかるよぉ。でなきゃ勧善懲悪ものは勧善懲善になっちゃうじゃん」

男「それはそれで真理なんだろうけど」


男「」カチカチカチ

妹「あっ、お兄ちゃんメール? それ女さんでしょ」

男「うん」

妹「なんて書いてあるのかなぁ」チラッ チラッ

男「見るか?」

妹「あ、あれえ? 私が知る限りじゃ大抵の人が嫌がるんだけど……」

男「見ないのか、じゃあいいな」

妹「みるみるみるー! どれどれー……え……」

妹「に、兄ちゃん! 携帯画面が真っ黒だよ!」

男「液晶が壊れてるみたいな言い方をするなよ。文字で埋め尽くされてるだけだろ?」


妹「これはラブメールなんだよね!? 決して嫌がらせじゃないんだよね!?」

男「なにを言ってるんだ、当たり前だろ?」

妹「お兄ちゃんが恐いよぉ……」ガタガタブルブル


妹「ま、まず最初はどんなことを書いてるの?」

男「どうでもいいけどまずと最初を合わせるな、恥かくぞ。メールの最初と言えば定型文だろ。冬の時も深まり肌寒い頃合となっていますが、体を冷やしてはいませんか? って」

妹「意外に常識ある丁寧なメールだった!」

男「寒ければ連絡ください。世界中の毛布を買い占めます、って」

妹「世界中の人をそんな理由で敵にしないで!?」

男「ご希望とあらば僕が温めに行きます」

妹「そこは思いの外普通だね」

男「全裸で」

妹「やっぱり犯罪者だった!」


男「冗談はさておき、冬といえば女さんの美しさが映える季節ですね。もちろん春の桜も真夏の太陽も秋の紅葉も女さんを引き立てるためだけに存在しているようなものですが」

妹「褒め言葉にも限度があるって知らなかったよ兄ちゃん……」

男「冬の寒さ、雪、氷、氷柱、どれも女さんを連想させます」

妹「上げて落とした! それ褒め言葉じゃないよね!?」

男「でもそんな中で女さんはいつでも絶対零度を保つ素敵な人です」

妹「それは人じゃないよ!」

男「ああ、いつか女さんを氷漬けにして鑑賞したいなあ」

妹「発想がサイコパスだよ! 病院行こう!?」

男「これも半分冗談です」

妹「半分本気!? そしてさっきのも半分本気だった!?」

男「送信、っと」

妹「お願いだからお兄ちゃん、実行しないでよ? ね?」

男「当たり前だろ」キリッ

妹「カッコつけるタイミングでもないよ……うぅ」


■女の部屋

姉「それでさ、妹ちゃん、その人ってどんな人?」

女「教える必要がないわ」

姉「いいじゃん教えなよぉ。でないと来年の抱負はあんたの秘密を暴くにするよぉ」

女「斜め下から脅迫しないでちょうだい。そう、それは鬱陶しわね」

女「彼は、そうね……一言で表すならストーカーね」

姉「どうしてもっと早く相談してくれなかったの!?」

女「ストーカーなんて普通に生きていれば何度かされてしまうものでしょう?」

姉「残念ながらそれは普通の人生じゃないんじゃないかなぁ。大丈夫なの?」

女「平気よ。彼は最後のラインを保ったストーカーだから」

姉「ストーカーとしてはそうでも人としては越えてること解ってる?」

女「いいじゃない、害しかないけど」

姉「やっぱり警察行こう!?」


姉「いや、ちょっと考えてみよう。妹ちゃんのことだから50%毒舌成分が混ざってるはず」

女「人をバファリン呼ばわりしないでくれるかしら」

姉「優しさは毒ってこと?」

女「やだうまい」

姉「えへへ」

女「豚もおだてりゃ木に登る、という諺があるのだけれどね」

姉「知ってるよぉ! ここで説明する意図も知ってるよぉ!」ウルウル

♪よるは~じこけんおでいそがしい よるは~じこけんおでいそがしんだっ♪

姉「!?」ビクッ

女「あら、噂をすれば彼からメールだわ。ふふ、カメラで盗撮でもされているのかしら」

姉「微笑ましく言うところじゃないって! もっと深刻になろう? そして着信音変えよう!?」


女「なになに」

姉「ねぇねぇお姉ちゃんにも見せてよぉ」

女「人のメールを知りたがるなんて現代っ子に漏れないマナーの無さね」

姉「毒舌じゃなくて正論っ」グッ

女「まあいいでしょう。彼のことだから、私の姉に見られるのは寧ろ悦びでしょうし」

姉「悦びなんだ……お姉ちゃんの心配は深まるばかりだぁ」

女「では読み上げましょう」


『冬の時も深まり肌寒い頃合となっていますが、体を冷やしてはいませんか?』

姉「あれ、なんか思ったより普通……寧ろ真面目?」
女「これは罠ね」
姉「どんな高度なメールなの!?」

『寒ければ連絡ください。世界中の毛布を買い占めます』

姉「突拍子もないこと言い出したよ!?」
女「彼の恐ろしいところはこれを実行する可能性があるということよ」
姉「家にそんな沢山の毛布はいりませんっ」

『ご希望とあらば僕が温めに行きます』

姉「ちょっと臭いけどマシな台詞だねぇ」

『全裸で』

姉「一生家に来ないで欲しいなっ!」
女「流石にこれは冗談みたいよ。次に『冗談はさておき』って続いているわ」
姉「じょ、冗談言うんだね、この子」
女「ええ、多分」
姉「!?」


『冬といえば女さんの美しさが映える季節ですね。もちろん春の桜も真夏の太陽も秋の紅葉も女さんを引き立てるためだけに存在しているようなものですが』

姉「褒め言葉で人殺しってできるのかもしれないね」
女「少なくとも褒め言葉で恐怖を植え付けることはできるでしょうね」

『冬の寒さ、雪、氷、氷柱、どれも女さんを連想させます』

姉「ふう、よかった。観察眼はそれなりに狂ってない子なんだぁ」
女「彼の場合、とことん使う頭が壊れているけれど」

『でもそんな中で女さんはいつでも絶対零度を保つ素敵な人です』

姉「うすらうすら感じてはいたけど……やっぱりMなんだ」
女「いやどちらかというと彼は……」
姉「ん? なになに?」ニヤニヤ
女「その反応が鬱陶しいからチャックするわ、姉の口に」
姉「物理的に準備しないでごめんなさいぃ!」


『ああ、いつか女さんを氷漬けにして鑑賞したいなあ』

姉「犯人はこの子だ!」
女「いつか私もその台詞を本人に言うべき時が来るのでしょうね」

『これも半分冗談です』

姉「半分本気だよこの子! 全裸であんたを氷漬けにしにくるよ!?」
女「それがこのメールのオチだと信じたいところね」

姉「で、妹ちゃん。なんて返信するの?」

女「そうね……『全裸で毛布を買い占めて私の氷像に見蕩れる暇があるのなら、世界中の毛布を買い占められるだけの財力を築く努力をしたら? そしてそのまま借金塗れになって飢えなさい』返信っと」

姉「とても妹ちゃんらしい文面だね……さりげなく不幸への道筋を築くところとか」

女「これで私が全裸の変態に殺されることも無くなったわ。それに、彼のことだから目指すのでしょうね、億万長者」

姉「ピュア過ぎて恐い……普通にメールしてるあんたもちょっと恐いなぁ」


■男の部屋

妹「ねえ兄ちゃん、人を好きになるってどんな感じ?」

男「なんだ、お前はまだ好きになったことないのか?」

妹「んー、ない気がする。それっぽいのはあるんだけど、なんか違う気がするんだぁ」

男「人を好きになる感覚なあ……」

妹「私さぁ、終業式の日に告られたんだよね、クラスメイトの男の子に」

男「ほう」

妹「凄い真剣な表情だったんだ。でも、私にはよくわからなくて……」

男「なるほどな。まあ人を好きになる感覚ってのは十人十色だから一概には言えんが……一つだけ共通点がある」

妹「なに?」

男「その人のためならと考えたら、なんだってできる」

男「要するに原動力になるわけだ」

妹「そっか……好きになるって凄いんだねぇ」


男「でもまあお前はまだ中学生だし、色々と失敗してもいいだろうから、その子にはお前なりの考えで応えてあげればいいんじゃないか」

妹「あぁ、そうだ、兄ちゃんってこんな感じだったよ。頼りになるんだよねぇ」ボソッ

男「どうかしたか?」

妹「なんでもないよっ、兄ちゃんっ」

♪半裸で絶叫、海へ、ゴー! 全裸で恐縮、空へ、ゴー!♪

妹「なにその歌!」ビクッ

男「タイトルが君のためなら死ねる、なんだ」

妹「そのタイトルを聞いたあとにこれを聞いたら悲しい気持ちになっちゃうよ!」

男「女さんからだ」

妹「やっぱり」


『全裸で毛布を買い占めて私の氷像に見蕩れる暇があるのなら、世界中の毛布を買い占められるだけの財力を築く努力をしたら? そしてそのまま借金塗れになって飢えなさい』

男「妹よ、わかるか?」

妹「な、なにが?」

男「これが愛だ」

妹「それは違うと断言できちゃう! よ、よぉく見てよ兄ちゃん! 最後のとこ、餓死を希望してるよ!」

男「これは希望してるんじゃなくて懸念してるんだ。莫大な富を得るためには同等のリスクを伴うから慢心しないように頑張ってね、と」

妹「同じメールを見ている気がしないよ兄ちゃん!」

男「そしてさっきの話を覚えてるか?」

妹「さっきの話って……まさかっ」

男「好きな人のためならなんでもできる」

妹「この人布団を買い占めるために富豪になるつもりだ!」

男「勇気を後押ししてくれるなんて素敵な女性だろ?」

妹「兄ちゃん気付いて! そこは火曜サスペンスでお馴染みの断崖絶壁だから!」

妹「やっぱり兄ちゃんが変になったぁ」ウァァアンn


■女の部屋

姉「それであんたはこの子のことどう思ってるの?」

女「好きよ」

姉「なんの照れもなく即答だなんてニヤけちゃうけど……不安だぁ」

女「こんな狂人、好きでもないと許せないじゃない」

姉「狂人を好きになっちゃいけないよ!?」

姉「あれ? でも付き合ってはないんだよね?」

女「そうね。向こうの想いはこの通りだし、つい先日私も想いを伝えたのだけれど、まだ交際には至ってないわね」

姉「付き合わない方がお姉ちゃん的には嬉しいけど……でもどうして? 付き合ったらいいじゃん」

女「これはそんな気軽な問題じゃないのよ……」ズーン

姉「おおっ、妹ちゃんのへこみ顔色珍しいから激写っ」パシャッ

女「あら」ベキッ

姉「一瞬にしてあたしの携帯が廃棄物に!?」

女「ごめんなさいね、目が悪くて気づかなかったわ」

姉「あたしから奪い取って床に置いてそれを踏み抜く視力はあるみたいだけどね!」ウルウル


姉「うぅ、ひどすぎるよぉ」ポロポロ

女「無断で人の顔を撮るのもよっぽど酷いけれどね。ほら、これ」

姉「それ、あたしの携帯っ」

女「さっきのはフェイク。いくら私でもそんなことしないわよ。そもそもその携帯、姉の私物じゃないのだし」

姉「お父さんに携帯料金払っててもらってよかった……」

姉「それでさ妹ちゃんっ」ケロ

女「その立ち直りの速さ、なにかを彷彿とさせるけれど彼とは別物ね。なにせ彼は転びすらしないのだから」


姉「どうして付き合わないの? の問題ってなに?」

女「前々から、というより初対面から彼は私に好きだ好きだと壊れたロボットのように連呼しているわけだけれど」

姉「好意を持っている相手に対する表現じゃないよ?」

女「私は六日前に好きだと伝えたばかりなのよ」

姉「ふむふむ、ってクリスマスイヴじゃん! お姉ちゃんに隠れてそんなことしてたなんて……爆発しろ!」

女「ばぁーん」

姉「強者の余裕が憎らしいっ」ウッ

女「話を戻して、それ以降なにも進展してないの。想いは告げ合ったけどそれだけで、付き合おうなんてまだ言ってないのよ」

姉「なるほど、タイミングを逃しちゃったわけだね」

女「そう」


女「彼のことだからすぐに交際を申し込んでくると思ったらそんなことなくて、寧ろ私が彼に好きだと伝えたことにも触れてこないのよね」

姉「え、それは意外だなぁ。今までの流れだとよりうるさくなりそうなのにねぇ」

女「多分、だけれど。彼は私に言わせようとしているんだわ」

姉「策略家だねぇ、その子」

女「けど私から言えるわけないじゃない?」

姉「あんたはそういうの無理だろうねぇ。好きだって伝えれただけマシだよ」

女「由々しき事態なのよね、これが」

姉「んー、まああれだっ。向こうが言ってこない以上、あんたが頑張るしかないんじゃない? あとふた月もしない内に絶好のイベントがあるわけだし?」

女「絶好のイベント?」

姉「ほらー、二月といえばー」


■□元旦□■

ワイワイ ガヤガヤ

男「おはよう女さん。新年明けましておめでとうございます。来年も宜しくお願いします」

女「おはよう男くん。新年明けましておめでとうございます。来年も宜しくと言わざるをえない風習が辛いわ」

男「ところで女さん、その振袖」スタ スタ スタ スタ「とっても似合ってるね」

女「今日は周りに沢山の警察がいるから不審な行動は慎みなさい」

男「結局考え抜いた末ボックスを踏んでみたけど、これはもう二度とやらないかな」

女「ついでに二度とあんなメールを送ってこないでほしいわね。反応に困るわ」

男「嘘でしょ?」

女「嘘ね」フフッ


男「ああ、そういえば女さん。一つだけ謝っておきたいんだけど、実はこの光景をどこかで妹が見ているんだ」

女「そういえば妹さんがいるのよね。構わないけれど、なにかあったの?」

男「昨日女さんの話をしたらさ、『なんか色々と心配だよ兄ちゃん』って」

女「いじらしい妹さんじゃない。それで言うと、こっちも姉が私達を監視しているはずよ」

男「ああ、未来のお姉さんだね」

女「さりげなく貴方の姉にしないでくれるかしら」

女「どうも『あんたに見る目がなさすぎるからあたしが代わりに判定を下すっ』って」

男「妹思いの素敵なお姉さんだね」

女「そうかしら?」


■□■□■
妹「あの人が女さんかぁ……兄ちゃんには勿体ない美人さんだなぁ」

妹「って兄ちゃん!? なぜいきなり踊りだしてるの!?」

妹「いけないいけない、しっかり見とかなくちゃ」

妹「兄ちゃんが犯罪者にならないように……それと」

妹「兄ちゃんはもしかしたら悪女に騙されてるだけかもしれないんだからっ」

■□■□■

姉「あの子が男くんか……あんなメールを送ってくるような子には見えないんだけどなぁ」

姉「ってええ!? 突然奇行に走ってる!?」

姉「会った傍から飛ばすなぁ……こりゃ間違いなく例の子だわ」

姉「姉として、妹を不幸にしないためにもしっかりと見定めるぞぉ」

姉「……あと、妹ちゃんが変なことしないように見張っておこう」


■□■□■

女「となると今日は視線が多いわね。ストーカー君もいるのでしょう?」

男「どうだろうなぁ、もしかしたら行けないかもって言ってたから。ほら、正月だから」

女「両親と過ごすかもしれないのね」

男「いやネットから離れられないって言ってたよ?」

女「一年の大半がアグレッシブにストーキングだからその方がいいのかしら?」

男「ストーカー君は言動が裏腹だからなぁ……内向的と言いつつストーカーであることに誇りを持っているようだし」

女「切実に彼へ意識改革の本を薦めようかしら」

男「第二の僕が誕生するだけだと思うな」

女「地獄絵図ね」


男「女さん、わたがしだよ。食べる?」

女「貴方は頭の中にわたがしが詰まってるからいいじゃない」

男「確かに女さんを思うといつもふわふわだなあ」

女「すかすかだと言っているのよ。まあ、食べるけど」

男「おじさーん、二つくださーい」

おじさん「あいよっ」スッ

男「はい女さん」

女「ありがとう」ハムッ

男「~~っ」ブルブル

女「なに身悶えてるのよ」

男「女さんが僕の脳を食べてると思うと嬉しくってさ」

女「……わたがしがトラウマになりそうよ」


男「美味しかったねえ女さん」

女「貴方がおかしなことを言わなければもっと満足できたわ」

男「あ、女さん、指にわたがしがついてるよ」

女「あらほんと」

男「取ってあげるよ」

女「ティッシュでも持ってるの? 準備がいいわね、お願いするわ」スッ

男「では失礼して」ペロ チュパッ

女「!?」

男「」ペロ チュッ チュゥゥゥ チュパッ

男「よし、後はティッシュで拭けばベタつかないねっ」

女「直りなさい」

女「今すぐ真冬の石段の上に正座して己の行いを猛省なさい!」


■□■□■

妹「んんぅ……思ったよりも普通だなぁ。なんだかんだいって兄ちゃんも迷惑かけてばっかりってわけじゃないんだなぁ」

妹「おっ、わたがし買ってあげてる。紳士じゃん。あ、そっか。道理で兄ちゃんバイトを始めたわけだ」

妹「美味そうだなぁ、私もあとで食べ――なにやってん兄ちゃん!?」

妹「周りからの注目度とんでもないことになってるよ!?」

妹「そりゃそうだこんな人ごみの中で指舐めてたら見られたい放題だよ!」

妹「いや、でもその前女さんが優雅に手を差し出していた……『駄犬みたいに舐めなさいな、おーっほっほっほ』とか言ってたのかもしれないっ」

妹「と思いきや兄ちゃん正座させられてる! 舐め方だ! 舐め方が甘かったんだ!」

妹「うぅ……兄ちゃんになんてことするんだ女さんめぇっ」ブルブル

通行人「……なにしてんだこの子」


■□■□■

姉「今のところおかしな様子はないなぁ。でもあのメールをしれっと送信するような子だから、言葉で圧迫してる可能性もあるよね」

姉「妹ちゃんに盗聴器でも仕掛けておくんだったなぁ、持ってないけど」

姉「あ、わたがし買ってもらってる。昨日のメールの冒頭でもそうだったけど、弁えてる所はしっかりしてるんだよなぁ」

姉「あたしも後でわたがしたーべよっ――って指フェ○!?」

姉「はっ//」キョロキョロ

姉「ちょっとちょっとどうしてこんな往来の場でそんなことができるのあの子は! 危険水域まで一気に浮上だよぉ!」

姉「と思いきやうちの妹は人目も幅からずに説教を始めている!? 気持ちは解るけどそりゃアウトだよアウトぉぉ!」

通行人「……秘密イベントでも開催されてんのか?」


■□三十分後□■

女「はあ、はあ……貴方のせいで無駄に注目を浴びてしまったじゃない」

男「女さんが説教を始めてからはギャラリーができてたもんね」

女「近所の方の目もあるでしょうに……二度とこんな真似は許さないわよ」

男「わかったよ、ごめんごめん」

女「露ほども悪いと思っていない謝罪ね、まったく」

女「それに貴方にとっても良いことじゃないでしょう? こういったことが私の両親の耳に入れば悪印象よ」

男「それについては算段を立ててるから大丈夫だよ」

女「人の両親を篭絡する算段を立てないでくれる?」

男「半年後には結婚を認めてもらうつもりだからっ」

女「それ以前のことがあるでしょうに……」

男「それ以前って?」シレッ

女「貴方のそういうところ、大嫌い。勘違いしないでちょうだい、これはクリスマスの日に伝えた嫌いとは意味の違う、心底から嫌悪しているという意味だから」

男「うん、つまりクリスマスの時に言ってもらった大嫌いはそういう意味じゃなかったということだね」

女「墓穴を掘ってしまったわ……」


男「さってと、メインイベントだよ女さん。初詣といえば願い事。女さんは神様になにを願う?」

女「そもそも神様には願いことではなくて感謝の意を贈るのが正しいわけだけれど、そうね……」

女「ここの神様は街を発展させて祀られたと云われる福神様だから、うちの店が安定して繁盛するよう願おうかしら」

男「願い事も理屈っぽいのは女さんの特徴だね」

女「どうせ貴方は理屈から遠ざかったような願い事をするつもりなのでしょう?」

男「そんなことないよ。福神様だから……よし、決めた。行こう」スッ

女「……なによその手は」

男「はぐれちゃいけないと思って」

女「それなら首に縄を付けてあげるわ」

男「ちょっと待っててね」ゴソゴソ

女「どんな準備の良さなのよ……しかも伸縮可能なリードじゃないの」

女「仕方がないわね。とても不本意だけれど、こんな人ごみの中一人にされたら溜まったものじゃないわ。服を握ってあげましょう」

男「福神様なだけに、福を握ったんだね」

女「好感度ダウン」

男「あちゃー」


パンッ パンッ

男「」スゥゥゥゥゥゥゥ

女「冗談やってないで普通にしなさい。今日はクリスマスではないのよ」

男「はは、ごめんごめん。慌てた女さんが見たくって」

女「後で覚えてなさい」

女(お店が未来永劫安定して繁盛しますように。それとできることなら、隣にいる男が幸福になりますように)

男(女さんを幸福にできる立派な人間になれるよう努力するので、少しの福を分け与えてください)

パンッ パンッ スッ ペコッ


■□■□■

妹「に、兄ちゃんっ、どこだ? 人が多すぎて見失っちゃったよぉ」

妹「うぅ……よくよく考えてみたら一人でこんな場所、寂しすぎる」

妹「結局女さんが悪女かどうか証拠が掴めなかったし……」

妹「でも諦めないんだからっ! いつか兄ちゃんを悪の手から助けてみせるっ」

■□■□■

姉「んーっ、んーっ」ピョン ピョン

姉「見失った……妹ちゃん、無事だといいけど」

姉「とりあえず、本日の調査結果から見れば――限りなくグレー! あの子は危険な子だぁ」

姉「なんであんな子に惚れてるんだか……妹ちゃんの審美眼が心配だよぉ」


■□■□■

男「女さん、甘酒だって。飲む?」

女「お酒は二十歳からよ」

男「あれはお酒じゃないよ。甘酒には二種類あって、内一種類は微量のアルコールを含むけど、内一種類はアルコールを含まないんだ」

女「あら、そうだったの」

男「そうだよ。それで、基本的にだけどこういう場で配られる甘酒っていうのは、含まない方なんだって。車で来る人もいるし、甘酒は酒じゃないっていう認識の人も多いから、子供に飲ませたりするでしょ?」

女「なるほどね。私に飲ませるために勉強してきたの?」

男「そうだよっ。お酒に酔った女さんが見たいからっ」

女「不純な動機を清々しく教えないでちょうだい。字面が……あら、悪くないわね」

女「どちらにせよ、アルコールを含まないなら酔わないのでしょう? 残念ね」

男「甘酒効果をなめちゃいけないな」


男「どうぞ」スッ

女「ありがとう」チビッ「あぅっ」

女「熱いわね……」

男「ふーふーしてあげよっか?」

女「甘酒を頭からかけられたくないなら黙ってなさい」

男「きっと女さんは飲食物を粗末にしない人だから、かけた甘酒を舐め取ってくれるんだよね? 幸せだなぁ」

女(違う願いにすればよかったわね)ズズー

女「暖かくて美味しいわね」

男「ぽかぽかしてくるでしょ?」

女「ええ」

男「それはアルコールが入ってるからだよ」

男(嘘だけどね)

女「私を謀ったのね――うぅ……」クラクラ

男(いくらなんでも早すぎるよ!?)


男(そうか、女さんって自己暗示であーなっちゃった人だから、催眠に弱いんだ……これは将来が心配だなあ)

女「なんだか足元が覚束ないわ」クラクラ ピト

男「大丈夫?」ガシッ

女「平気、よ……」

男(頬を赤らめた女さん可愛いなあ。それに酔ってるからかちょっと甘えん坊だ)

女「男くん……」ウルッ

男「なーに、女さん」ニコッ

女「……」ウルッ ジー

男(これはもしや……キスのチャンス!?)

男(酔ってるところを利用させてもらうのは申し訳ないけど、据え膳食わぬはなんとやらだし、うんっ、遠慮なく!)


男「」ドキドキ

ソー

男「」ドキドキ

ソー

男「」ドキドキ

女「ふふっ」ベチンッ

男「……あれ?」

女「いくらなんでもそんな簡単に酔うわけないでしょう?」

男「……すっかり騙されちゃった」

女「ふふ、いい夢見れたかしら」

男「夢、夢かあ。うん、いい初夢だったよ」

女「そう。それはよかった。なにせ」

女「初夢は叶うものだそうからね」


fin.


蛇足編


妹「いいなー兄ちゃん恋人できて。あ、恋人じゃないんだっけ」スタスタ ドンッ

妹「うぁっ」スッテン

姉「ごめんねっ、大丈夫?」

妹「は、はいっ、大丈夫で……いたた」

姉「膝擦りむいちゃってるね……絆創膏持ってるから張ってあげるっ」

妹「すみません……」

姉「気にしないで、あたしも余所見してたのが悪いんだから」

妹(なんか、見たことある美人さんだなぁ)

姉(なんか、見たことある可愛い子だなぁ)


姉「はい、できましたっ」

妹「ありがとうございますっ」

姉「いえいえ。あれ? 一人で来たの?」

妹「ええ、事情がありまして……」

姉「あたしも一人で来たのよ。仲間だねぇ」

妹「そうなんですか? じゃあ、その……」

姉「これもなにかの縁だし、初詣していこっか」ニコッ

妹「はいっ」


妹「あっ、わたがし。食べたかったんですよねぇ」

姉「あたしも食べたかったの。気が合うねぇ……あ、名前は?」

妹「妹っていいますっ。えっと」

姉「あたしは姉。よろしくねぇ。この辺りの子、よね?」

妹「そうですよぉ。だからどこかで会ったことがあるかもしれませんねっ」

姉「また今度どこかで会ったらお茶しよっか」

妹「はいっ。ケーキ食べに行きましょうケーキっ」

姉「うん、いいねっ」


妹「姉さんはどうして一人で?」

姉「んー、あたしの妹がね、ちょっと困った子に惚れてるみたいで……心配になっちゃってね」

妹「そうなんですか!? 実はうちも、兄が困った人を好きになってるみたいで、監視しにきたんですよぉ」

姉「なんか親近感沸くねぇ」

妹「ですねぇ」

姉(この子が男くんの妹、ってことはないよねっ。こんなに普通な良い子なんだし)

妹(この人が女さんの姉、ってことはないよねぇ。とっても素敵なお姉さんだしっ)

姉&妹(……すっごい似てるんだけど)


パンッ パンッ

妹(どうか兄が目を覚ましますように。兄が魔の手から救われますようにっ)

姉(どうか妹ちゃんが不幸になりませんように。男くんがまともな人間になりますようにっ)

姉&妹(お願いします……神様っ)

パンッ パンッ

fin