サンタ「糞ったれ! 世界中に俺様を待つガキがいるってのに!」

サンタ「徒歩には限度がありやがる!」

サンタ「今年も世界は回れねえのか?」

サンタ「俺様のイメージを壊さず、なおかつウルティマな速度な乗りもんはねえのかよ」

パラララパラララ パカラッパカラッパカラッ

サンタ「ああん?」
.


ヒュゥゥゥゥン

サンタ「なんだこの気迫ぁ! 音を切り裂きながら走ってやがる!」

ビュオン ビュオン キュキュインッ

サンタ「なんつー直滑降! 死神を恐れねぇ急カーブ! あれはいったい……!?」

パカラッパカラッパカラッ

赤鼻「どけどけどけえええええ! ノロマな空気は道を開けやがれえええええ!」

サンタ「赤鼻の……トナカイ、だと?」


■翌日

サンタ「昨夜俺様が見たのは間違いなくトナカイだった。決して光速の代名詞じゃねえ、トナカイだ!」

サンタ「しかし調べてみりゃあとんだ有名人じゃねえか」

サンタ「"雷スパイダー"、"疾光天使"、"音殺し"」

サンタ「その異名だけで俺様が求める存在だってのは伝わってきたぜえ」

サンタ「決めたぁ! あいつは俺様の駒にする!」

サンタ「さてと。赤鼻の野郎がたむろってんのはこの辺らしいが……?」

ワイワイ ガヤガヤ


サンタ「おうおうおう。ちょいと探しトナカイしてんだけどよぉ」

鹿「きゃー! 赤い悪魔が現れたわー!」

牛「ふも~! 食われちゃ適わんぞい!」

羊「毛を刈るのはやめぇぇぇ~」

サンタ「おいおい、大袈裟な奴らだぜ。ちょいと遊んでやっただけだろう?」

鹿「私にせんべいを塗りつけたくせに!」

牛「わしを解体しようとしたふも~!」

羊「毛を以下略」

サンタ「ああん!? てめえら俺様に逆らうってのかあ!?」

ライオン「ぐるっぐるっぐる……俺の刃が光る前におうちへ帰ぶげぶりゃお!」バキィッ

サンタ「てめえは毛玉でも吐いてろ!」

ライオン「」キュゥ~


サンタ「ちっ、ここにいるって聞いて来たのによぉ……どこにいんだああああああ!
    赤鼻野郎おおおおおおおおおおおお!」

パカラッパカラッパカラッ

サンタ「ん? この音はっ!」

パカラッパカラッパカラッ ヒュゥゥゥゥン

サンタ「この気迫! 間違いねえ! 赤はぶごおっ!?」ドゴォ

ズズン

赤鼻「誰に向かって口聞いてやがんだうらああああああああああ!」

サンタ「なにすんだごらあああああああああああ!」

鹿「ああ……もうこの世界はおしまいよ……。
  赤い悪魔が同じ場所に揃ってしまったわ……」


赤鼻「おい糞野郎、ここが誰のシマだか解って遊んでんのか? ああん!?」

サンタ「この世界は全て俺様のシマだ。文句あんのか、ああん!?」


牛「どうして語尾にああんが付くんじゃろう」ボソボソ
羊「知能が低いとああなるめぇぇ~」ボソボソ


赤鼻「聞こえてんぞ!」

サンタ「家畜共が!」

赤鼻&サンタ「「ああん!?」」

鹿「息ぴったりね」


サンタ「おい赤鼻、二度は言わねえ俺様の足になりがやれ」

赤鼻「俺も二度は言わねえぞ。赤鼻って呼ぶんじゃねえ!」

サンタ「お? そのピエロみてえなレッドは恥部か? ああん?」

赤鼻「勘違いすんじゃねえよ糞白髭。赤鼻は最大のチャームポイントじゃうらあ!」

サンタ「てんめえ俺が手塩にかけた白髭馬鹿にしたな? おっ? こら?」ゴツン

赤鼻「あんだてめ、やっちまうぞ、やったんぞ?」ゴツン

グリグリグリグリ

鹿「精神年齢が同級生ね」


サンタ「黙って俺様の足になりやがれえええええええ!」

赤鼻「盗んだバイクでも走らせとけやあああああ!」


サンタは地に積もった雪を蹴り上げて目潰しを狙った。
しかし赤鼻は特攻することで無効化し、自慢の角を躊躇なく心臓へ向ける。
雄叫びをあげたサンタは寸前で角を掴み、天へ放った。
満天の星空に室伏張りの叫びが轟く。

回転して空気を蹴った赤鼻は首を無造作に振り回しながら突進する。
対してサンタは自前の白い袋からフライパンを取り出して一本足打法を構えた。

鉄と鉄が激しく擦れた雷のような音が辺りに響いく。
赤鼻の角はフライパンを破り、しかしそれでもサンタはフライパンを放していなかった。


牛「この闘い、長引くのう」
羊「戦闘力は拮抗してるめぇぇ~」

鹿「いやギャグストーリーよこれ!」

鹿の嘆きは虚空に消えて。
牛、羊の観察どおり、二人の闘いは翌朝まで延々と続いた。


サンタ「はあ、はあ……」

赤鼻「ぐう……くっくっく、まさか俺と張り合える奴がこの世にいるたぁな」

サンタ「そりゃ俺様の台詞だぜえ……はあっはあっ……」

赤鼻「けどそれもここまでだ。足も肩も笑ってんぞ? 運動不足なんじゃねえか?」

サンタ「まだまだ……やれらぁ……」

サンタ(ちっ、化け物が。地球を一週間で横断できる俺様でも、こいつの体力にゃあついていけねえ……)

赤鼻「次で決まりだ」

サンタ「次で決める」

赤鼻「おあああああああああああああああああ!」

サンタ「だらあああああああああああああああ――あっ」ピタッ

赤鼻「ああん? なにいきなり止まってやがんだ?」

サンタ「しっ」


サンタ(……聞こえる)

サンタ(俺様を呼ぶ声が)

サンタ「闘いは中断だ」

赤鼻「ああん!? ここまでノっておいて終わらせるわけねえだろうが!」

サンタ「……解った。俺様の負けでいい」

赤鼻「」ブチッ

赤鼻「ふっざけんじゃねえええええええ!」ヒュゥゥゥゥン

サンタ「――頼む、勘弁してくれ」

赤鼻「」キキーッ

赤鼻(どういうこった?
   ちょっとしか殺り合ってねえが、こいつが自ら負けを認める奴じゃねえことは明白だ)

サンタ「言っとくけど、諦めたわけじゃねえからな。また来るぞ」シュタッ

赤鼻「……」


サンタ(ちっ……ちょっとばかし遊びすぎたぜ)ズキッ

サンタ(だが急がねえと間に合わねえ! 俺様を呼ぶ声がしてんだ!)

パカラッパカラッパカラッ

赤鼻「待てやごらああああああああああ!」

サンタ「あんだ赤鼻ぁ! てめえと遊んでる暇はねえんだよ!」

赤鼻「赤鼻って呼ぶんじゃねえ糞白髭!」

サンタ「うるせえ家で寝てろ!」

赤鼻「……こんなんじゃ眠れねえ」

赤鼻「教えやがれ。お前は今からなにをしに行くんだ」

サンタ「サンタが急ぐ理由なんざ一つだ」

サンタ「クリスマスプレゼントを与えに行くに決まってんだろ」


赤鼻「でも今日はクリスマスじゃねえぞ?」

サンタ「サンタを信じる超良い子限定でな、前倒しが可能なんだよ」

サンタ「今年のクリスマスプレゼントはいりません。だから――っつーアレだ」

赤鼻「……そのためか?」

サンタ「あ?」

赤鼻「そのためにお前は俺に負けたのか?」

サンタ「……はっ。勝負なんざどうだっていいからなあ」

赤鼻「なっ」

サンタ「てめえの信念に勝る価値なんざこの世にゃねえ!」

サンタ「勝負の途中だろうが親の死に目だろうが女抱いてる時だろうがよぉ!」

サンタ「どこかで俺様を呼ぶ声があるなら駆けつける!」

サンタ「それが俺様のサンタ道〈信念〉だ!」

赤鼻「くっ……」

赤鼻「くっはっはっはっは!」


赤鼻「気に入ったぜ糞白髭!」

サンタ「てめえに気に入られるまでもなく俺様は最高だ!」

赤鼻「おい」

赤鼻「乗れ」

サンタ「……なに?」

赤鼻「俺の背中は安くねえぞ! さっさと乗りやがれえええええええ!」

サンタ「はっ」

サンタ「はっはっはっはっは!」

サンタ「うっしゃあ!」ガバッ

赤鼻「振り落とされんじゃねえぞ糞白髭ぇ!」

サンタ「退屈させんなよ赤鼻ぁ!」

ビュォォォォォォォォン キィーンッ


■その赤鼻、発光。

サンタ「っくー、今年のクリスマスは吹雪やがるぜ」

赤鼻「ちっとばかし視界が悪いな」

サンタ「ったくよお、民謡には"暗い夜道はぴかぴかの鼻が役立つ"ってんだろうに。
    全然光ってねえじゃねえか!」

赤鼻「ああん!?」

赤鼻「光らせる必要がなかったから光らせなかったんだよ!」

赤鼻「見てろや俺の本気!」

赤鼻「おんどりゃああああああああああああ!」ビカビカビッカー!!

サンタ「ライトっつーかビーム兵器じゃねえか!」

赤鼻「よいしゃあああああああああああああ!」ビカビカビッカー!!

サンタ「燃えてる! 雪山が削れてる! っておいこのまま街行くなよおおおおお!?」


あわてんぼうの サンタクロース
クリスマスの日に 街燃やした


■その赤鼻、童貞。

赤鼻「お、おう糞白髭」

サンタ「あんだトナカイの癖にもじもじしやがって」

赤鼻「お、俺に、メストナカイの落とし方教えてくれ!」

サンタ「お前……恋でもしたんか?」

赤鼻「ああ。恥ずかしながら、初恋だぜ」

サンタ「そうか。お前が俺様に頼みごとなんざ、よっぽどなんだろうな」

赤鼻「本気だ。頼む!」

サンタ「よし、あとちょっとでクレオパトラとセックスできた俺が一つだけ言ってやる」

赤鼻「スケールが壮大だな。よし、心して聞く!」

サンタ「メストナカイの落とし方……それは……」

赤鼻「それは……?」

サンタ「知らん。俺様人間だし」

赤鼻「そりゃそうだ☆」



■その白髭、危機。

サンタ「ぐっ……はあ……はあ……」ポタポタ

赤鼻「白っ、髭……大丈夫かよ……ぐはっ」

サンタ「てめえに心配されるほど……やわじゃねえ……」

?「くふふ……私にこうまで蹂躙されてよく立っていられるものです。
  冥土の土産にこの世の地獄を魅せてあげましょう」

サンタ「――糞ったれっ」

カーン

D「はーいカットでーす。おつかれさまでーす」

D「皆さん迫真の演技でしたよー」

サンタ「ったく、なんで俺様がやられ役なんだよ」

赤鼻「俺だって納得いかねえ……一番納得いかねえのはてめえが親玉ってことだがな!」

羊「くふふ……くじ運だめぇぇ~」

D「でもいい画が取れましたよー。サンタPVばっちり完成です! これでサンタ信者も増えますね!」

鹿「……減ると思うの」


■end X'mas 4 days ago.

サンタ「なあ、赤鼻」

赤鼻「なんだよ白髭」

サンタ「俺様、お前と遊ぶの結構楽しかったぜ」

赤鼻「あんだ気持ち悪い……まあ、俺も悪くなかったがよぉ」

サンタ「へっ」

赤鼻「はっ」


赤鼻「かれこれ百年か? お前と走って」

サンタ「百年、百年なあ。長いようで短い百年だったぜ」

赤鼻「そんなもんじゃねえの?」

サンタ「そんなもんかね?」

赤鼻「俺もよ、地球を一周すんの長く感じんだよ」

サンタ「光速トナカイのお前がか? 冗談だろ?」

赤鼻「まじだって。でもよ、終わるとなんちゅーか、あっという間だ」

サンタ「ああ、そうかもしんねえな」

サンタ「地獄のクリスマス・ラン……」

赤鼻「でも幸福の日だ」

サンタ「違いねえな」


サンタ「前倒しプレゼントでサッカーボールが欲しいってのあったよな」

赤鼻「腹たったから蹴りつけてやったけどな」

サンタ「泣いてたな、あのガキ」

赤鼻「お詫びにソリ乗せてやったんだからどっこいどっこいだろ」

サンタ「泣いて喜んでたもんなあ」


サンタ「で、結局ヤレたのか? お前」

赤鼻「ったりめえだろ? 俺を誰だと思ってやがる」

サンタ「出会ってから八十年も手を出せなかったチキンだろ?」

赤鼻「俺はトナカイだ。鳥じゃねえ」

サンタ「誤魔化してやがんの」プクク

赤鼻「まあ、よ」

赤鼻「別れは告げてきたぜ」

サンタ「……」


サンタ「なあ、いいんだぜ?」

サンタ「俺様に付き合わなくってもよ」

赤鼻「ふう」

赤鼻「歯ぁ食いしばれええええええええええ!」

サンタ「」バキッ

赤鼻「……二度と答えねえ」

サンタ「はっはっはっは! お返しだ!」

赤鼻「なっ」バキッ

サンタ「行くか! 赤鼻ぁ!」

赤鼻「……ったく」

赤鼻「振り落とされんなよ! 白髭ぇ!」




幼女「きれいだなー」

その夜、ある田舎の幼女が父親がセットした望遠鏡で空を眺めていた。

幼女「きらきらー」

淡い紫の空にぽつぽつと輝く星。

幼女「……あれ、なあに?」

レンズの中で途端にある一帯が変化した。
暗い、暗い、暗い、闇。

幼女「……あれ……こわい……」

無限に深まる闇。
徐々に星を喰らう闇。

幼女「やだ……こわいよぉ……」


そんな折、幼女は一つの光を見た。

幼女「……あかい、ひかり」

世界を飲む闇に向かって。
赤い光が直進している。

幼女「あぶないよ……いたいいたいだよ……」

その光を案じて少女は胸を痛めた。

「「ああん!?」」

幼女「」ビクッ

「俺を誰だと思ってやがる!」

「俺様を誰だと思ってやがる!」

「「天下無敵の真っ赤な悪魔様だぜええええええええ!」」

赤い光が闇に包まれた。
あまりにも呆気なく光は呑まれてしまった。

刹那、弾ける空間。
闇は空に降り注ぐように破裂した。

幼女の瞳には七色に煌く、空のカーテンが映っていた。


2012年12月25日。
世界は無事クリスマスを迎えることができた。
しかし。
世界にサンタからのプレゼントは配られなかった。



















■2013年12月25日

「やっべえええええええ去年の分が繰り越されて二倍近くになってやがる!」

「っだあ!? まじかよ糞ったれ! てめえが道草食ってるからこんな遅くなっちまったんだろうが糞白髭ぇ!」

「あんだあ? 俺様の所為だってのか!? お前だって織姫にうつつ抜かしてただろうが赤鼻ぁ!」

「やんのかあ!?」

「やったんぞごらあ!」

「「ああん!?」」

(サンタさんきてくれるかなぁ)(サンタさんへ、おっきなくつしたでまってます)(サンタさん、けがをしないようにきをつけてね)(サンタさん、かぜひかないでね)


「……」

「……」

「はっはっはあ! サンタ魂が灼熱だぜええええええええ!」

「風圧で潰れんじゃねえぞ白髭ぇ!」

「ったりめえだ! こんな最高の夜を見逃せっかよ!」

「世界中の良い子共ぉ!」

「待ってやがれよぉ!」


「「めりいいいいいいいいいくりすまあああああああああああああああああす!」」

パカラッパカラッパカラッパカラッ

シャンッシャンッシャンッシャンッ

fin.