"純愛くんと天邪鬼さん”


第一話

第三話

第四話
男「芸術の秋だねえ、女さん」

女「紅葉も散ろうとする気温になってから言うことじゃないわね」

男「女さんとこうして話せるようになったのがここ最近だからね」

女「つい先週のことね。でもどうして?いくらタイミングを逃したからって、わざわざ話す必要も無い気がするのだけれど」

男「そんなことないよ。僕は女さんに楽しんでもらえるなら、どんなイベントだって見逃さないさ」

女「気持ちは嬉しいけど暑苦しいわ」

男「僕の愛は千度だからね」

女「シルバーアクセを作る機会があれば呼ばせてもらうわ」

男「二人で行う初めての営みだね」

女「相変わらずポジティブね、貴方」


女「それで、想像はついているけれど秋のイベントって?」

男「もちろん文化祭だよ、女さん」

女「やっぱり文化祭なのね。再来週だったかしら」

男「そうだよ。女さんは文化祭に興味はないの?」

女「あまりないわね。クラスの出し物は確か喫茶店よね。私はあまり関わるつもりがないからウエイトレスではなくて小道具作りなの。それに、文化祭当日も誰かと廻る予定はないわ」

男「流石コミュ障の女さんだね」

女「貴方はぼそりと人に大剣を突き刺すのが趣味なのかしら」


男「じゃあ時間はあるんだ。ライブとかどう?」

女「却下。文化祭=ライブが青春という流れに乗るつもりはないの。
  これは捻くれてるのではなくて、元々人前に出るのが好きじゃないからよ」

男「でも女さんは人の上に立つ絵が映えるんだけどな」

女「貴方の願望でしかないじゃない」

男「大量の屍の上に立つ女さん・・・是非その時は僕の顔面に比重を乗せてほしいな」

女「是非もなにもそんな物語は戦国時代に飛ばされても展開しないわ」


男「それなら定番だけど、僕と一緒に学校を廻ってくれませんか」

女「よく恥ずかしげもなく姫に忠誠を誓うような騎士のポーズができるわね。
  そうまでしなくても廻るぐらい構わないわ、どうせ暇なのよ。
  そして手を取ろうと伸ばした手を私は一生掴まないわよ早くしまいなさい。
  いっそのことロウソクを置きたいぐらいだわ」

男「女さんが置いてくれたロウソクなら溶けきるまでこの体勢で居続けるよ」

女「貴方の愛情と私の嫌悪は比例して高まっていくわね」

男「女さんと一緒に成長していけるなんて幸福だなあ」

女「進む方向は背中合わせだけれどね」

男「戦場の戦友みたいだね。僕の後ろは任せた、女さん」

女「私はフレンドリーファイアを早々に体験するのね」

男「女さんの快楽を満たせるなら丸裸で赴くよ」

女「人をサイコパス呼ばわりしないでちょうだい。はあ、どんな勝負をしても貴方に勝てる気がしないわ」



文化祭当日

男「おはよう、女さん。じゃあ早速廻ろうか」

女「構わないけれど、よく考えてみれば貴方は大丈夫なの?私は裏方だから仕事はもうないけれど」

男「大丈夫だよ。喫茶店に必要な男は美少年と男の娘だけらしいから」

女「ウエイトレス役なのね。同情するわ」

男「よし、行こう。多分全部廻れると思うけど、女さんは行きたいところとかある?」

女「そうね。手芸部と文系部の発表が気になるわ」

男「じゃあまずはそこから行こうか」


北棟校舎三階 手芸部

男「"ご自由に観覧下さい"か。凄くあっさりしてるね」

女「ゆっくりできていいわ。押し売りをされても困るもの」

男「文化部の人が押し売りするってイメージが湧かないな」

女「今時は熱血系文化人とやらもいるそうだから解らないものよ」

男「それこそ漫画やアニメの影響なのかな。陰鬱としてるよりはいい傾向かな?」

女「さあ、どうかしらね。あら、これ綺麗ね」

男「手編みの絵か。凄いね、手芸って。独特の雰囲気がある」

女「でしょう」

男「ん?女さん、今ちょっと鼻高々だった?」

女「貴方はどこの誰と接しているの?私がキノピオみたいに鼻を伸ばせるとでも?」

男「確かに女さんらしくはないけど・・・別に僕は女さんを変人だとは思ってないよ」

女「変態に変人呼ばわりされなかったことが悲しいわ」

男「いやいや、だってこの作品、女さんも手伝ってるんでしょ?」


女「ちょっと男くんなにを言い出すのかしら私は貴方が知っているように部活動なんて全くしていない陰湿な帰宅部部長よ」ゼハァ ゼハァ

男「女さん、誤魔化すことより息を吸おう」

女「な、なんで知っているのよ。というか知っていても言わないのが優しさとかあるでしょう?」

男「僕が女さんで知らないことは体内に秘められた五臓六腑の色だけだと自負しているからね」

女「そんなものを知ろうとしなくていいわ、はぐらかさないで答えなさい」

男「うん、実はね――今知ったよ」

女「ふぇ?」

男「軽口混じりにカマをかけてみただけなんだ。そしたらブルズアイに命中。いえいダブルスコアだね」

女「そんな適当な……」ワナワナ


男「どうして言ったのかって問いには、別に僕は優しいわけじゃないから、って答えておくね。
  女さんがこの絵を褒めた時に、僕の視線を伺っていたでしょ?
  そして感想に同意したら喜んだでしょ?
  もしかしたら女さんは、僕にこれを見せたかったのかなって考えたんだ
  でも、発表を確認しに行くのに見せたいと思う心境は無理があるよね
  だからカマをかけてみたんだよ、女さん
  まあ、冗談レベルだったんだけどね」

女「気分は断崖絶壁の殺人犯ね。浮ついた足が窓の方へ向かってしまいそう」

男「でも意外だな。女さん、友達いたんだね」

女「その感想は心外だけれど、前に促すようなことを私が言ったから置いておくとして
  ……別に友達がいるわけじゃないわ」

男「え、じゃあ・・・部活でも孤立?」

女「できればそちらじゃなくこの絵を一人で創作したことに対して着目して欲しかったわ」

男「ごめんごめん。凄いね、女さん。本当に綺麗だ」

女「あらそう」

男「(素っ気ない返事だけど、実は褒められたくて僕を誘導した女さん可愛いなあ)」


北棟校舎三階 文芸部

文系部員A「いらっしゃっしゃっしゃーい!」

部員B「Aちゃん、もう少し静かにしようよ……」

A「でも今日初のお客様だよ!?嬉しいじゃん!?ハッピーじゃん!?歓天喜地じゃん!」

B「すいません騒がしくて。本は机の上に並べてあります。
 全て短編となっているので時間は取りません。よかったら読んで行ってください」


女「予想外の出迎えに面食らってしまったけれど、読んでいる最中は静かにしてくれるのね」

男「そこはやっぱり自分たちが書いた本だから邪魔したくないしされたくもないんじゃないかな」

女「それもそうね。ところで貴方、今はなにを読んでいるの?」

男「"残酷な運動会"だよ。小学校の運動会が舞台なホラー物みたいだね」

女「小学生に見せちゃいけない本ベストテンに選ばれそうね」

男「女さんは?」

女「"キャラメルスイートな裸締め"というのを読んでいるわ。今のところ良く解らないわね。登場人物は全て男みたいだけれど」

男「この部活は治外法権かもしれないね」

女「どういうこと?」

男「そういうことだよ」


女「作者を呼びなさい……この本に十八禁指定ラベルを貼らなかった作者を呼びなさい!」

男「ああ、やっぱり甘いのはそこのキャラメルだったんだね」

部員B「す、すいません。大分軽目に仕立てたので大丈夫かと思ったんですが……」

女「"大門君が裸締めをする度に僕のキャラメルを鷲掴みにする"これで軽目ならなにが重目なのよ!」

部員B「そ、そんなの恥ずかしくて口にできません//」

女「ではメモに書いて説明しなさい」

サラサラサラ

部員B「こ、これが重目、です//」

女「……」ボンッ

男「女さんがレトロな漫画のようにオーバーヒートしてしまった」
  休ませてあげたいので引き上げますね。よいしょっと」

男(女さんは露骨な性的表現に弱いのか・・・覚えておこう)


廊下の端

女「うぅ……三日月の涎は、三日月の涎はやめてあげて……」

男「どんな性表現を目にしたのか気になるうわごとだなあ
  それにしても女さん・・・眠り姫みたいで綺麗だなあ」

男「余すところなく舐め尽くしたいなあ
  ひと握りも残さず甘噛みしたいなあ
  髪の先から足の爪まで咀嚼したいなあ
  女さんに取り付く菌とか販売されたらいくらでも払って買い占めちゃうよ
  はあ、ほんと、綺麗だなあ」

女「言わせておけば言いたい放題ね、貴方」

男「おはよう女さん」

女「妄想を聞かれたからといってうろたえながら取り繕わない辺り貴方らしいけれど
  貴方の口が私に触れることは夢の世界まで遠のいたわ」

男「その権利をゲットする旅に出るよ」

女「そのまま悪夢に誘われなさい」


男「さて、それじゃあここからは適当に巡ってみよう
  北棟校舎の三階は文化部の部室ばかりだね」

女「映研にアニ研に漫研。どこも活発ね」

男「そんな中で僕がお薦めなのはここ、げん○けん」

女「え、なに?げん○けん?なによそれ」

男「詳しい説明は省くけど、オタク系の集大成とも呼べる部活みたいだよ」

女「貴方そんなことに興味があったの?」

男「ライトノベルを読むから興味がないわけじゃないけど、着目点はそこじゃないんだよ
  ほら、この看板見て」

女「コスプレ試着できます?貴方、妙なことを考えていないかしら」

男「女さん、勝負をしよう」

女「この闘いは負けられないわね……」


男「勝負の内容はとっても単純。
  僕が今から右手か左手にコインを握り込むからそれを女さんが当てる。
  女さんが当てれば女さんの勝ち、だよ」

女「単純明快なゲームね。さっさと始めてちょうだい」

男「よーし」ゴソゴソ「はい、どっちだ」

女「そうね……(男くんは右利きだから、無意識に右で最初握るはずよ。そこで持ち変えるとして左、かしら)」

男「ところで女さん、僕は右手にコインを握り込んだよ」

女「なっ……(これは……心理戦なのね)」


男「女さんの性格だから運に頼って選ぶ、ってのはどの道なさそうだよね」

女「話しかけないでちょうだい。今考えているの」

男「これは勝負だからね。ルール違反にならない限りは僕も攻撃するよ」

女「ぐぅ……(いつも忠誠を誓っていますみたいな雰囲気出しときながら負ける気がないわね、男くん。欲望に忠実とも言えるけれど……)」

男「どうして僕が右手に握り込んだと思う?それはね、僕の利き手が右手だからだよ」

女「(惑わされちゃ駄目。大事なのは男くんが右手に握り込んだと宣言した事実だけ。
  その場合、男くんの性格上右手に握り混んでいる可能性が高いかしら。
  右手と宣言して、左手と思わせておいて、その実右手……)」

男「ああ、嬉しいなあ。女さんの頭の中僕で一杯なんだろうなあ。
  端から端まで侵食できて、幸福だなあ」

女「」ゾワァ

女「流石ね。貴方に気持ち悪いことを言わせたら右に出るものはそういないわ」


女「(読めたわ!裏の裏と見せかけて、私がそこまで読むことも想定済みのはず。
  これだけ私を知ったかぶっている男くんの力量を買おうじゃない!)」

女「そう、貴方が握り混んでいるコインはずばり右手よ」

女「ふふ、たかがコイン握りゲームにここまで頭を働かせるとは思わなかったわ。
  けれど、読みきったわ。さあ、手を開きなさい」

男「流石僕が愛する女性だよ、女さん。
  当てずっぽうではなく考えて答えてくれた、というのが堪らなく嬉しい
  女さん」

女「ふふ、正義は悪に屈しないのよ」ドヤァ

男「コインは左手でしたー」

女「」ドヤァ...


女「ま、負けた……」

男「いやあ、女さんのことだから色々考えるんだろうなあと思ってね。
  例えば僕は利き手の逆で握り込む、とか?
  だからそうしたし、そう思わせないようにしてみたよ」

女「貴方の言葉に翻弄された時、既に勝敗は決していたのね。
  いいわ、なんでも命令しなさい。たった一回の命令だけ聞いてあげるわ。
  それが敗者の持つ唯一のプライドよ」

男「(負けても尚凛としている女さん可愛い)
  とても魅力的な甘言に当初の目的を忘れてしまいそうだけど
  初心忘れぬべからずということでここはコスプレをしてもらうよ」

女「そ、そう」ホッ

男「安心した?」

女「私は肉の一部分を削がれる覚悟もしていたわ」

男「女さん、妄想と現実の境界線は有るから安心して欲しいな」

女「貴方が言う信憑性の薄い言葉ナンバーワンね」

男「髪の毛はいいよね?」

女「前言撤回しなさい」


北棟校舎三階 げん○けん

げん○けん部長「はあい、いらっしゃあい」ブルンブルン

女「男くん、あの胸の大きさは同性であろうと目がいってしまうけれど
  まじまじと見るのは失礼だから止めなさい――ってなにを見ているの」

男「いや、それでもやっぱり女さんの胸の方が魅力的だなあっぶふ!」バチーン

女「下品な視線は本気で嫌いよ、自重しなさい」

男「ごめん、調子に乗りすぎたね」

部長「あらあら、とんだバカップルがいらっしゃたのねえ」

女「貴方のせいでバカップル認定されてしまったじゃない。責任……は取らなくていいわ」

男「求愛するチャンスを潰された・・・女さん、僕の扱い方を覚えなくていいよ」


部長「当部活はもちろん例の漫画に触発されて作った部活でえす。
   因みに私のおっぱいは偽物でえす。
   あんな牛野郎がごろごろいてたまるかってのお」

女「やんわりと汚い言葉を使う人ね、希少だわ」

部長「それで本日はどのような服をお探しですかあ?」

男「現実系じゃなくて思い切りファンタジーなものはありますか?」

部長「ありますよお。ファンタジーなら
   魔法使い、魔王、僧侶がすぐにできますねえ。
   勇者もありますけど鎧が少し重いんですよお」


男「じゃあ魔王で」

女「貴方は私と魔王にどんな共通点を見出したのかしら」

男「毒舌な魔王というのは鉄板なんだよ、女さん」

部長「陵辱物の鉄板ですねえ」

女「貴方が考えていることがようく解ったわ。
  これからは優しく接してあげるわね」

男「女さんに優しくされたら嬉しくて暴走しちゃいそうだなあ」

女「(扱い方を覚えてきたけれど心は絶対に折れそうもないわね……)」


部長「できましたよお。じゃじゃーん」

女魔王「……うぅ//」

男「女さん・・・可愛いよ」

女魔王「真顔で素になって褒めないでちょうだい。
    いつものように気味の悪い褒め言葉を撒き散らしなさいよ。
    思いの外露出度が高くて恥ずかしいのよ逃げ出したいわよ」

男「ご、ごめん。本当に見惚れちゃって」

女「……//」プシュー

部長「うんうん、毒舌なのに恥ずかしがり屋だなんてごちそうさまですねえ」


女「も、もう満足よね。着替えてくるわ」

部長「いえいえ、その前に記念写真を撮りましょお」

女「現時点で既に罰ゲームなのにどうして恥を記録しなければならないの」

部長「吹っ切れちゃいましょうよお。
   人生は一度、思い出は一生ですよお」

男「もうこんな機会ないだろうし、撮っておこうよ女さん」

女「貴方には渡さないわよ」

男「流石にそれは女さんが可哀想だからいいよ。
  でも、折角だから、ね」

女「……一枚、だけよ」


廊下

女「ふう、まだ顔が熱いわ」

男「僕も胸が熱いや」

女「っ――忘れなさい//」

男「それは難しいな。
  僕の目を誰かに移植したら網膜に焼き付いた女さん魔王verがその人にも見えてしまうぐらいにね」

女「うぅ//……すー、はー」



男「突然深呼吸してどうしたの、女さん」

女「今の深呼吸で切り替えたのよ」

男「深呼吸で切り替えるって、そんな簡単にできるかなあ。思い返したらまた顔が火照ったりしない?」

女「珍しく私をいじれることに喜びを感じているのか知らないけれど
  今の私は恥を感じずにただただ怒りが湧いているわ。
  ねえ、男くん。空を自由に飛びたいかしら?」

男「タケ○プターが欲しいかな」

女「貴方お得意な愛の力とやらで飛んでちょうだい」

男「僕が飛べるのは桃源郷だけですごめんなさい」


中庭

男「中庭は祭りを連想させる出店が多いね」

女「そのようね」

男「なにもしないの?」

女「あまり気乗りしないわね」

男「そっか。それじゃあ、三本勝負といかない?」

女「今度こそ肉を削ぎとるつもりなのね」

男「まさか。今回は罰ゲームなし。純粋に力比べしようよ。折角の祭りなんだしさ」

女「そう……でもそれじゃあやる気がイマイチね。負けたら昼食代を出す、ということでどうかしら」

男「よし、決まりだね」


射的

男「狙いを定めて――はっ、やっ、とうっ」 六発中三発命中

女「気のせいかしら、的である鬼の目に直撃していたような気がするわ」

男「そんな病み方はしてないよ。はい、次は女さんの版だね」

女「あまりやったことがないのよね……うーん」

男「(女の子が射的をする時に構えるお尻をやや突きだすこのポーズ・・・
  扇情的で刺激が強いよ・・・)」

女「えい、やあ、とお」 六発中四発命中

男「おお、上手いね女さん」

女「……なに鼻血を垂らしているの」

男「弾が奇妙に跳ね返って鼻の穴にすっぽりと入ったかもしれない」

女「中途半端な奇跡ね。こんな大きなコルクがすっぽりと入ったら大事だけれど。
  そういうことにしといてあげるわ」


ボール掬い

女「子供ながらに思ったものだわ、どうしてボールを掬わなければならないのだろうって」

男「冷めた子供もいたもんだね。そんな女さんに僕が実践した心構えを教えよう」

女「ボール掬い如きに心構えとは熱心なことね。どんな心構えかしら」

男「浮かんでいるのはボールじゃなくて亡者で、助けてくれ助けてくれと蠢いているんだ」

女「さながら掬う杓子は蜘蛛の糸ね」

男「そう思うとやる気も出てくるでしょ?」

女「残念ながら私は亡者を助ける趣味はないわ。そうね、可愛いマスコットに見立ててみようかしら」

男「そして持ち帰る道中にアスファルトに叩きつけて跳ねさせるんだね」

女「子供の遊戯が一気に猟奇的になってしまったわ」

男:五玉掬い 女:三玉掬い


くじ引き(無数の縄を引くタイプ。先端が景品と繋がっている)

男「最後は運試しだよ、女さん」

女「運も力の内だものね。さあ、引きましょう」

男「これかなあ。えい」グイッ

女「私はこれを。えい」グイッ

男&女「……」ビンッ ビンッ

くじ引き生徒「おおっと珍しいのを引いたなァ!これは特別相性がいい二人だけが引く繋がった縄なんだ!」

男「空気読もうよ」
女「空気を読みなさい」

くじ引き生徒「え、いや、あの、カップルなら将来も明るい、え?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

くじ引き生徒「も、もう一回どうぞ!」

再抽選結果 男:五等 女:三等


女「ふう、二連敗は避けることができたわね」

男「運で負けるとなると女さんと勝負事をするのが恐くなるなあ」

女「神様もきっと見ているのよ、どちらが善人かとかをね」

男「女さんが自分の肩を持った言い方をするなんて珍しいね」

女「少なくとも神様はストーカーに優しくないと思うわよ」

男「ああ、忘れてた。僕ってストーカーみたいなものだった」


男「ストーカーと言えばストーカー君、やっぱりいるね」

女「いるのは構わないけれど……どうにかならないかしら」

男「あれ?気にしてないんじゃなかったの?」

女「申し訳ないのよ。私は多分彼と仲良くなることはないだろうから。
  今更友達になりましょう、なんて言えないもの」

男「一度フッてるからね。他にいい子が見つかればいいんだけど、彼は一途だから」


女「そういえば携帯番号知ってるのよね?なにか話したりしてないの?」

男「女さんの話しかしてないなあ」

女「自分がいないところで自分の話をされていると聞くのは不気味ね。
  アイドル達はよくそれを許容できるものだわ」

男「確かに女さんはアイドルには向いてないだろうね。
  ファンサービスの時にビンタしてそう」

女「間違わないで、私は闘魂を歌うアントニオじゃないの」

男「女さんに頬を張られたくて行列が見える」

女「確実に貴方が先頭じゃないの」

男「寧ろ行列の全てが僕だったりするね」

女「悪夢だわ」


西棟校舎二階 一年C組主催"化物喫茶"

男「というわけで昼食がてら我がクラスに貢献しようと来てみたわけだけど」

女「よく考えてみれば混沌としているわね」

男「文化祭で人気のお化け屋敷と喫茶店を足して二で割った構図だからね。
  ほら、一反木綿が注文を聞きにきたよ」

男友(一反木綿)「よう男。ノンキにデートなんざしやがって」

男「いいじゃん友。お前がそこにいるのはイケメンと認められた証拠だろ?」

友「イケメン共は吸血鬼とかをやってるよ。俺はジャンケンで負けただけだ」


友「つぅかお前、女さんとデートとか聞いてねえぞ。いつの間にそこまで関係が進んだ」コショコショ

男「前に友に言った時以来、関係は進展しないよ。
  未だに僕は女さんを護る友達だから」

友「んでお前はいつになったら秘蔵のAVくれんだよ」コショコショ

男「今度家に来なよっていうか女さんの前でその話はやめて」コショコショ

女「私に隠れてなにを話しているのかしら」

男「男の密談だよ女さん」

女「脳内真っピンクの男の子らしい話でしょうね。
  どうせならそのまま花畑で窒息してしまえばいいのに」

友「・・・ひそひそ話だけでここまで言われると泣きたくなるな」

男「可愛いでしょ?」

友「」


イケメン吸血鬼「こちらオムライスの生き血添えでございます」エエコエ~

プリティ猫娘「化け猫オリジナル焼きそばまたたびふりかけ付きです……にゃん」

女「女性陣はまだ慣れていないようね」

男「語尾がにゃんとかわんとかってのは可愛さアピールだからね。
  羞恥心が邪魔しちゃうんじゃないかな」

女「仕事だと思えば割り切れるじゃない」

男「誰も彼もがそんなシンプルだとは思わないけど・・・
  女さんは平気なの?」

女「仕事なら平気だけれど、人前に出るのが嫌だからどの道やらないわよ」

男「一つ目標ができたよ。いつか女さんににゃんと言わせてみせる」

女「そんにゃことに奮迅されるのは溜まったものじゃにゃいから今してあげるにゃん。
  満足かしら?」

男「ありがとうございます」


会計ぬり壁「お会計は六百円になるかべ~」

男「はい、六百円」

会計ぬり壁「彼女に払わさないとは紳士な男かべ~」

男「そういうわけじゃないよ、後藤くん」

会計ぬり壁「現世の名前を言うなかべ~」

女「(昼食代を女に出させるというのは妙な噂が立ちかねない。
  まさか、そこまで考慮した上で負けたというの?
  いえ、最後のは運だったもの。ありえないわ。
  考えすぎよね……ね?)」


男「さて、お腹も膨れたところで文化祭定番のお化け屋敷にでも行こうか」

女「貴方なにか不誠実なことを期待したりしていないかしら。
  私がきゃーこわーいと腕に抱きつく、とか」

男「そんなことになればいいなあとは思うけど、女さんってそういうの強そうだよね」

女「可もなく不可もなくね。
  でも怖がりではないから文化祭レベルのお化け屋敷で怯えることはないでしょうね」

男「じゃあこれは消化要素が強い取り組みになりそうだね」


西棟校舎三階 二年A組主催"闇屋敷"

女「闇屋敷というだけあって真っ暗闇ね。お化け屋敷に最適な空間だわ」

男「そうだね。隣にいる女さんも霞んでるよ。
  入口で渡された縄を失くしたら進む方向もわからなくなるね」

女「こういうムードは好きじゃないわね。お化け屋敷ってビックリ箱のようなものだし」

男「あれ、でもそこまで苦手じゃないんじゃなかった?」

女「洋画は見れるわ。邦画は見れない」

男「洋画ホラーは恐いというか最終的にモンスターパニックになることが多いもんね」

女「日本のホラーと違って恐さ以外で責めるから、恐くないのよね。
  ナイトメアシリーズなんて中盤コメディになっているし」

男「ゲームで殺される回は笑ったなあ」

闇の者「うがあああぁあああぁぁああああ!」

女「うるさいわね、会話の邪魔をしないでちょうだい」

男「冷めすぎていてお化けが可哀想になるよ」


男「女さん、男は女さんみたいな人が意外に怖がりだというギャップを求めてるんだよ」

女「求められてもないものねだりは意味ないわ。
  それに貴方に気に入られる必要がないもの」ペタン

女「鬱陶しいわね、邪魔よ」

男「こんにゃくトラップも意に介さないか。
  女さんの悲鳴は諦めることにするかな」

女「あら、もう出口みたい、残念ね」

女生徒「女ざあああああああああああん!」

女「ひっ」ビクゥ

男「結論、生きてる人間の方が恐い、と。ありきたりだけどね」


女生徒「お願い女さん!ちょっとキーボード弾いてほしいんだ!」

女「嫌よ」

女生徒「ばっさりと!?でもここは譲れないぃ。お願い!」

男「どこのどなたさん、とりあえず事情を話してみてよ」

女生徒「同じクラスよ……」

男「ごめん、女さん以外の女性は記憶しないようになってるから」

女生徒「便利な脳内構造してるのね……事情といっても簡単で
    文化祭ライブがあるでしょ?あれに出場するんだけど
    キーボードの子が突き指しちゃったの」

男「それで女さんか。女さんは音楽祭でピアノ弾いてたもんね」

女「こんなことなら弾かない方が良かったわ」


女生徒「お願い、女さん!」

女「でも」

男「女さん、ここは受けておいたら?
  女さんの評判が上がって友達作れるかもしれないよ?」コショコショ

女「私はっ……いいわ。受けてあげる。けれど一つだけ条件があるわ」

女生徒「ありがとお!条件とかなんでも聞く聞く!なに?」

女「私は人前に出たくないの。だから私だけ舞台裏で演奏させてちょうだい」


体育館

男「どう、弾けそう?」

女「ジャズを弾くよりはずっと簡単よ。それに、キーボードは音も誤魔化しが効くし」

男「それにしても不思議な感じがするね。
  幕を隔てた向こう側は物凄く盛り上がっているのに
  裏側の暗い場所には僕と女さんしかいない」

女「雰囲気としてはまあまあね。
  下手に光が当たる場所よりは退廃的で嫌いじゃないわ」

男「いつか女さんに寂れた廃墟でピアノを弾いてほしいな」

女「機会を潰すけど機会があれば弾いてあげる」


男「いよいよ時間だね」

女「そうね。合わせなしで本番だから、ろくな演奏はできないでしょうけれど」

男「女さんの観客は僕一人だけか。凄く贅沢だな」

女「悲しいけれどそこまでの腕前はないわ。習い事を続けた結果程度の腕前よ。
  でも、まあ、そうね。
  どうせなら楽しんでいってくれるとありがたいわ」

男「悪ふざけはせずに清聴させてもらうよ」パチパチパチ


幕の反対側から響くバスドラムのリズムに合わせて、少女は細い指を器用に躍らせた。
煌びやかな表舞台とは相反する裏舞台は、整理もされてなければ埃っぽくもある。
そこに一筋の光もあれば滅びた聖堂のように神格化されるのだろう。

しかしここに光はなかった。薄暗い世界で鍵盤を叩く少女と音に揺れる少年。
少女の音はアンプを介して外に響くが、その姿を見る者は少年しかいない。
不思議な気分に酔いしれながら少年は絵画の世界に迷い込んだかのような印象を持つ。

少女は音を奏でるがリズムを体で表現しない。
ただ淡々と音と音を繋げていくだけ。
音楽をよく知る者からすれば、機械的過ぎると否定されるかもしれない。
だが機械的に淡々と音と音を繋げていく少女の姿に、少年は「なんて美しいんだろう」と無意識に零していた。


男「お疲れ様。楽しかったよ、ありがとう、女さん」

女「貴方に褒められる必要はないけれど、楽しんでもらえてなによりだわ」

男「女さん、好きだよ」

女「どうしたの、急に。貴方が突然訳の解らないことを発するのはいつものことだけれど」

男「ここで言わなきゃ僕じゃないと思っただけだよ。
  さて、時間はまだ残っているし、もう少し校舎を廻ろうか」

女「……また騎士の。はあ、仕方ないわね。
  エスコートしてくれるかしら、男くん」

男「女さんのためなら喜んで」

女「あら、てっきりここは姫だの女王だの言うのかとばかり」

男「僕だってキメる時はキメにかかるよ。
  でないといつまでたっても友達のままだしね」

女「……そう。
  いつもがあまりにも気持ち悪いものだから、普通に接されると好感が持てるわね。
  これも手口かしら」

男「やめてよ、女さん。褒められるとまたいつものように・・・うへへ」

女「それが貴方のいつもなら確実に私は距離を置いているわね」